特集 発達障害につきまして
このアドバンス通信誌上においても、何年かごとに今回のテーマである発達障害について特集を組んだことがございます。
ここ10年ほどで研究と理解が一気に広がったものですが、まだまだ誤解も多く、われわれ一人一人が色々なことを理解しながら、障害を持たれている方と一緒に社会的共存を図っていく必要があります。
われわれも、私塾を始めた当初はそういった理解もほとんどなく、
「なぜこの子はこんなに理解が遅いのだろう」
「この子は自分の言っていることが理解できていないのではないか」
「相手の気持ちを汲むことができず、なぜそんなに一方的に自分の主張を押し通すのだろう」
などと理解できない事柄にぶつかることも多くありました。
そこで、書物にあたり、また勉強会などに参加することによって、理解も相当進んできたときのことが、ついこの間のように感じます。
その間、国の方でも法整備が進み「発達障害者支援法」が施行され、改正が続いている状況であります。
もちろん、我々は私塾ですので、子どもの発達障害を目の当たりにしてきているのですが、もちろん、子どもだけが発達障害をお持ちというわけではなく、大人の発達障害が社会的に認知がされ始めたのも、その法律が施行されて以降の気がしています。
そういった中で、大人の発達障害についても理解が進んでいきましたが、大人や子どもにかかわらず、発達障害について、社会全体で支えていこうという所までは至っていないように思われます。
随分前のことですが、私が通院していた病院の会計の時に、お釣りの計算ができないパートの方がおられ、横で見ている方もドキドキはらはら。会計をされていた患者さんからお釣りが違うとクレームを言われていたり、同僚の方からも厳しい指導をされていたりするのを見て、もしかすると、計算的な部分の発達障害をお持ちなのかもと思いました。
普段色々な機会で接することが多い自分は理解ができましたが、発達障害についての知識をお持ちではない方であれば「この人なんだろう」と思われてしまうことを思うと、非常に心が痛みました。
また、ご本人も一生懸命やられていても、どうしてもできないことなので、苦悩や辛い表情をされていて何とも言えない思いを持ったことを覚えております。
このように大人や子どもに関わらず、無理解で苦しんだり、二次的被害を受けてしまうケースもあり、更に研究が進み、社会的理解が進まないといけないと痛感しております。
我々も、塾という社会的責任の中で、お子様が発達障害ではないかと悩み、苦しんでおられるご家庭とも一緒になって、お子様の進路について考え、今できることは何か、今不足していることは何か、それができるようになるために、まずは何をすることができるのかなどといった観点から、保護者の方と一緒になって取り組んで来ています。
もちろん、発達障害の原因については、すべてが解明されているわけではなく、先天性の遺伝によるもの、発育環境など後天性のものなどといった様々な要因があるとされていますが、先天性遺伝が一番だと研究されており、育て方が悪かったなどと自責の念にかられる必要はありません。
また発達障害は、ASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)の大きく3つに区分されています。
ただ、区分されていると言いましても、個人個人でそのいずれもが重なっていることも多く、どれか一つだけの特徴の強弱があるということもあるので、一概にあまりこの区分に固執することは良くないとされています。
また、この10年ほどで一気に診断基準なども普及し、発達障害専門医院や専門科なども普及してきたため、受診する人も増え、数字的に増えてきたという背景があるので、昔は少なかったけど、現在は増えているというのは当てはまりません。以前から診断はされていませんが、多くの方が障害をお持ちであったと推測されるわけです。
最近のデータでは小中学生の6.5%が発達障害の可能性があるという調査があります。6.5%というと少ない気がしないでもありませんが、35人学級でクラスに2名、40人学級でクラスに3名弱ということですから、少ないというよりむしろ驚くほど多いと考える必要があります。
20年ほど前までは、社会的な認知度が低かったため、自分の子どもに少し遅れがあると感じていたり、極度に落ち着きがなかったり、極度にコミュニケーションが取れなかったりして、何かおかしいと思っていても「まさか、うちの子が発達障害であるはずはない」という思いで、診断などを受けないといったケースが多くありました。ですので、数字が潜在化され、表面に出てこられなかったのです。
最近は、NHKでも放送されており、社会的認知度が高まりつつありますので、保護者の方が専門医や相談センターなどを通じ、相談を行い、受診されるケースも多く、診断を受けて、ある意味今までの悩みが軽減されるといったことも多く見られるようです。ただ、その場合、お子様だけではなく、保護者の方自身(大人)の発達障害が判明する場合などもあり、その結果が、20年前と比べ、データの数字が7倍に膨らんでいるということです。
非常にナーバスで難しい問題ではありますが、受診をされ、適切な治療や訓練で症状は軽減されたり、改善されたりしますので、治ることのない障害ではありますが、無理解のまま、苦悩しながら過ごしていき、二次的被害を本人が受けてしまうことを考えますと、辛いことではありますが、その軽減を図る方が良いケースもございます。
また、発達障害といいますとマイナス面のみクローズアップされがちですが、マイナス面だけではなく、プラス面や長所が天才的な面で発揮されるケースもあります。
古くは、あの天才物理学者であるアインシュタインはADHDと学習障害があったと言われています。
さらには、画家のピカソもADHD、ゴッホはアスペルガー(自閉症スペクトラム)と言われています。
最近では、トムクルーズが自身の発達障害を告白し、台本が覚えられない、字が読めない失読症・難読症を公表しています。
黒柳徹子さん、深瀬慧さん、ミッツマングローブさんなどもご自身で告白をされているようです。
そういった中で、確かに発達障害のそれぞれの症状については、マイナス面がある部分は否めませんが、逆にプラス面では、天才的な暗記力を持っていたり、芸術的センスが秀逸であったり、ご自身の特性を活かして社会に貢献され、活躍されておられる方も数多くおられます。
それぞれの特性を活かし、また苦手な部分は少しずつ補っていけるという周囲の理解によって、障害を持たれている人も自分に自信を持てるようになり、また活躍することができるようになっていくと信じています。
周囲の理解がないまま、「自分はなぜこんなにできないのだろう」・「なぜこんなに周囲と軋轢を生むのだろう」・「自分では一生懸命やっているのに、周囲から全く認めてもらえない」・「自分ではそんなつもりはないのに、周囲からは自己中と思われているのはなぜだろう」・「文章の中身が全然入ってこない」・「計算だけはできるが図形になると全くだめ」・「漢字が書けない」・「暗記が全くだめ」・「対人コミュニケーションが取れない」・「人の気持ちが理解できない」などといった特有の症状に周囲が無理解のままでいると、本人が自信を喪失してしまい、自分はだめな人間なんだと二次的被害を引き起こしてしまう可能性があると言われています。
そういった意味では、我々も私塾ではありますが、我々でできる理解についての学習をしっかりと行い、少しでも多くの方に、理解いただくことをお伝えしていければと考えております。
物知り顔のジャーナリストなどが「発達障害を持っている子どもは、そういったことを専門にしている機関で教育をしてもらうべきだ」などと、現場を知らないようなことをおっしゃっておられますが、初めから発達障害だとわかって、学校に通学したり、塾に通塾しているわけではないという観点がもれているわけです。
非常に難しい問題ではありますが、ご縁があって、ご一緒に学んでいる塾生の方と保護者の方には、まだまだ我々も理解が不十分な所はございますが、精一杯のサポートはしていきたいと考えておりますので、お一人で悩まれずに、いつでもご相談頂ければと思います。
よろしくお願いいたします。
【発達障害のそれぞれの特徴】
■広汎性発達障害(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)
*明らかな知的な遅れは伴わない
*言語発達の遅れは伴わない
*人に関心がない
*空気を読むのが苦手
*コミュニケーションが苦手
*運動や手先が不器用
*特定のものに強いこだわり
*好きなものに偏りが強い
*要領が悪い(複数のことを同時にすることが苦手)
*相手の気持ちや表情を読むことが苦手
*常識や暗黙のルールが理解できない
*曖昧な表現が理解しづらい
*冗談や皮肉がわかりにくい
*会話がちょっと変わっており、早口であったり、
難解な用語を多用したりする
*感情表現が苦手である
*変化が嫌い
自閉症スペクトラムである広汎性発達障害は、言語や知識に遅れがないため、学生時代には顕在化することが少なく、大人になって仕事をし始めてから顕在化することが多い。
■ADHD(注意欠如多動性障害)
*年齢にふさわしい落ち着きや注意力が欠けている障害
※小学生の間に顕在化が多い
*ずっとしゃべり続ける
*落ち着きがない。集中力がない
*忘れ物が多い。ものをなくす
*宿題を忘れる
*相手の話を聞くのが苦手
*感情が抑えられない
*わかっているが、衝動的に相手
が嫌がることをしたり、言ってしまう。
*極端にせっかち
*喜怒哀楽が激しい
*いつもぼんやりしている
■LD(学習障害)
全般的な知的発達に遅れはないが、
読むこと、書くこと、聞くこと、
話すこと、計算すること、推論する
ことなどの中で、どれか特定のものだけに著しい困難がある状態のことです。
*読むことが苦手。音読が苦手
*書くことが苦手。漢字が書けない。書く文字が独特。
文字サイズが揃わない。
*聞くことが苦手。聞き取れない。聞き間違いが多い。
耳からの情報が伝わらない。
*話すことが苦手。うまく会話ができない。言葉が出てこない。
頭で考えている事が言葉に出ない。
*計算・推論・算数が苦手。計算だけができない。
図形だけができない。推論ができない。
ここに挙げた特徴はあくまでも一つの指標であり、参考程度としてお考え下さい。
発達障害の診断は、あくまでも、医師のみができるものとなります。
当てはまるからといって安易に考えてしまうことだけはお避け下さい。
なにか気になることがございましたら、塾長までご相談頂ければと存じます。